新規事業の種は「新しい欲望」ではなく、見過ごされた使い分けにある
Hatched by naoya
Aug 27, 2026
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「誰もが欲しがるもの」を探している限り、新規事業の本当の種は見つからない。むしろ有望なのは、同じ商品を使っている人々が、なぜか同じようには使っていない場面である。
ダークモードをめぐる利用実態は、そのことを端的に示している。ある調査では、モバイル端末を主にダークモードで使う人、ライトモードで使う人、両方を使い分ける人が、それぞれおよそ三分の一ずつ存在した。これは単なる画面表示の好みではない。一つのカテゴリーに見える市場の中に、異なる状況、異なる不満、異なる成功条件が同居しているという事実である。
ここから、新規事業について一つの重要な問いが浮かぶ。
新しいプロダクトは、存在しない需要を発明するものなのか。それとも、すでにあるプロダクトの「うまくいっていない使われ方」を発見するものなのか。
私の答えは後者である。ゼロから何かを生み出す再現性は、完全な無から発想する能力ではない。既存のものを分解し、誰にとって、どの条件で、何がまだ解決されていないかを見抜く能力にある。
「新規性」は発明よりも、再分類から生まれる
新規事業という言葉には、誰も見たことのないものを作る印象がある。しかし実際には、成功する新規事業の多くは、既存のカテゴリーを別の角度から定義し直している。
たとえば、あるサービスを単に「業務チャット」と呼ぶだけでは、すでに似た製品が多数存在する。ところが、それを「情報を送る道具」ではなく、「意思決定の履歴を残す仕組み」と再定義すれば、見える課題が変わる。通知の速さより検索性が重要になり、会話の量より、後から経緯を理解できることが重要になる。カテゴリーは同じでも、競争する軸が変わる。
この再分類を行うために有効なのが、既存プロダクトを逆向きに説明する方法である。まず、次のように一つの商品を分解する。
- これは何というプロダクトか。
- どのカテゴリーに属しているか。
- どの課題を解決しているか。
- 誰を対象にしているか。
- どの条件なら解決できるか。
- どの課題は解決できていないか。
- 顧客は何に不満を感じているか。
- 何を提供すれば、乗り換える決定的な理由になるか。
重要なのは、最初の三項目よりも後半である。既存サービスは、すでに解決している問題を大きく見せる。しかし新しい機会は、解決策の有効範囲の外側に残っている。
この視点に立つと、「ダークモードかライトモードか」という問いも変わる。画面の色を選ばせる機能として見るのではなく、現在の表示設定が、どの利用条件に適合し、どの条件で破綻するのかを問うのである。
暗い場所では、明るい画面がまぶしく感じられるかもしれない。反対に、屋外の強い光の下では、暗い画面の文字が読みづらくなるかもしれない。長時間読む人、素早く情報を確認する人、写真を扱う人、視覚的な負担を感じやすい人では、最適な設定も異なる。ここで見えてくるのは、色の好みではなく、利用状況とプロダクトの適合性のずれである。
すべての顧客を満足させることが、最適解とは限らない
三分の一ずつに分かれた調査結果から、「全員が使いやすい中間的なモードを作ろう」と考えるのは自然である。しかし、それはしばしば間違った方向に進む。
市場の分岐は、顧客の意見がまとまっていない証拠ではない。顧客が異なる状況で異なる価値を求めている証拠である。両方を使い分ける人は、決断できない人ではない。環境に応じて最適化している人かもしれない。
この違いは、プロダクト設計において決定的である。全員向けの一つの解決策を作ると、どの利用場面でもそこそこ使えるが、特定の場面で圧倒的に優れたものにはなりにくい。逆に、ある条件で発生する不満を徹底的に解消すれば、対象は狭くても、乗り換える理由は強くなる。
たとえば、会計ソフトを考えてみよう。「すべての会社が簡単に使えること」を目標にすると、機能も画面も説明も平均化される。しかし、少人数の店舗経営者に絞り、「営業終了後の三十分で、現金と電子決済の差異を確実に確認できること」を中心に設計すれば、必要な顧客にとっては明確な価値になる。これは機能を増やした結果ではない。不満が発生する条件を狭く定義した結果である。
新規事業の発想でよくある誤りは、「より多くの人に使われるもの」を考えることだ。だが、初期のプロダクトに必要なのは、より多くの人ではなく、より強く困っている人である。
市場の大きさは、対象者の人数だけでは決まらない。不満の強さと、乗り換えの切実さによって決まる。
再現できるのはアイデアではなく、観察の手順である
新規事業が属人的に見えるのは、優れた人だけがひらめきを持つからではない。多くの場合、観察している対象が曖昧なまま、「何か新しいものを考えてください」と依頼されているからである。
ひらめきを手順に変えるには、既存プロダクトを次の四つの層で観察するとよい。
第一層は、表面的な機能である
何ができるのかを確認する。ダークモードなら、画面全体を暗い配色に切り替えられる。ここだけを見ると、改善案は色の追加や切り替えボタンの変更にとどまりやすい。
第二層は、想定された利用条件である
その機能は、どのような環境を前提にしているのかを考える。室内か屋外か、昼か夜か、短時間か長時間か、個人利用か共同利用か。プロダクトは、明示されていない前提条件の上に成立している。
第三層は、前提から外れる瞬間である
ユーザーが設定を変更したり、複数の方法を使い分けたりする場面を探す。そこには、既存の機能が役に立たない状況がある。両方のモードを使う人がいるなら、単純な好みの違いではなく、現在の仕組みが状況変化に追いついていない可能性がある。
第四層は、代替行動である
不満を抱えた顧客は、必ずしも苦情を言うとは限らない。設定を毎回変える、別のアプリに移る、紙に戻る、作業を後回しにする、誰かに確認を頼む。こうした小さな回避行動は、未解決の課題を示す強いシグナルである。
この四層を通じて見ると、事業機会は「新機能」ではなく「既存機能が要求している我慢」の中に現れる。ユーザーが慣れてしまった不便は、アンケートでは見えにくい。だからこそ、設定変更、二重入力、確認作業、使い分けといった行動を観察する必要がある。
「使い分け」は不満ではなく、次の設計仕様である
ユーザーが複数の選択肢を使い分けているとき、企業はしばしば「好みが分かれている」と結論づける。しかし、使い分けはもっと豊かな情報を含んでいる。
それは、ユーザーが自分で状況に合わせてプロダクトを調整しているということだ。言い換えれば、プロダクトの不足をユーザーが手作業で補っている。ここに、次のプロダクトが解くべき課題がある。
この考え方を、適応負担と呼ぶことができる。適応負担とは、商品が状況に合わせて変化しないために、ユーザーが設定変更や判断を引き受けるコストである。
適応負担は、次の式で考えられる。
適応負担 = 状況の変化量 × 手動調整の回数 × 調整を忘れたときの損失
ダークモードの場合、時間帯や照明環境が変わるたびに手動で設定を変えるなら、調整の回数が増える。変更を忘れて目が疲れる、文字が読みにくいといった損失が発生するなら、単なる好みの問題ではなくなる。
同じ構造は、さまざまな領域に存在する。学習アプリでは、集中できる時間帯によって通知の望ましさが変わる。金融サービスでは、日常の支出と事業の支出を同じ画面で扱うことが負担になる。社内ツールでは、速報を読むときと過去の経緯を探すときで、必要な画面構成が異なる。
良い新規事業は、選択肢を増やすだけではない。ユーザーが毎回行っている調整を、プロダクト側が引き受ける。この発想に立てば、差別化とは珍しい機能ではなく、顧客の適応負担をどれだけ減らせるかになる。
明日から使える「逆向き観察」の実践法
既存プロダクトから事業の種を見つけたいなら、次の手順を一つの対象に対して試してみるとよい。対象は競合サービスでも、自社製品でも、日常的に使うアプリでも構わない。
1. 一文で現在の価値を書く
「これは、誰の、どの課題を、どの条件で解決するものか」と書く。機能の説明ではなく、価値の成立条件を書くことが重要である。
2. 条件を一つずつ反転させる
時間、場所、頻度、利用者の習熟度、緊急性、他者との共同作業。これらを変えたとき、同じ価値が保たれるかを確認する。保たれない条件に、未解決の課題が潜んでいる。
3. ユーザーの「余計な一手」を記録する
設定を変える、検索し直す、別のツールに貼り付ける、スクリーンショットを撮る、誰かに聞く。便利そうに見える機能の裏側で、顧客が何を補っているかを観察する。
4. 不満を「乗り換え理由」に翻訳する
「少し使いにくい」では弱い。「毎日三回の手動調整がなくなる」「引き継ぎ時に説明が不要になる」「屋外でも確認ミスが減る」のように、失われている時間、安心、精度を具体化する。
5. 最小の対象者で検証する
全員に好かれる案ではなく、特定の条件で強く困っている人に試してもらう。目的は高い評価を得ることではない。今の方法を捨ててでも使いたいかを確かめることである。
Key Takeaways
- 新規性をゼロから発明しようとしない。 既存プロダクトのカテゴリー、顧客、解決課題、未解決課題を分解して見直す。
- ユーザーの使い分けを、好みの分散として片づけない。 使い分けは、状況変化に対してプロダクトが適応できていないサインかもしれない。
- 不満そのものより、ユーザーが不満を補う行動を見る。 設定変更や二重入力などの小さな手間は、強い事業機会になる。
- 広い市場より、強い乗り換え理由を探す。 初期の顧客は、人数の多さではなく、課題の切実さで選ぶ。
- 差別化を機能の珍しさで考えない。 顧客が負担している適応作業を、どれだけプロダクト側に移せるかで考える。
新規事業の出発点は、未来を空想することではない。現在のプロダクトを注意深く見て、誰が、どの場面で、どんな我慢をしているかを発見することである。
ダークモードとライトモードの違いは、画面の色に見える。しかし本質は、同じ人間でさえ時間や場所によって異なる要求を持つということだ。市場は一枚岩ではなく、状況の束でできている。
だから、最も有望な問いは「何を作れば多くの人が欲しがるか」ではない。
「人々は今、どんな使い分けを強いられていて、その調整を誰も引き受けていないのか」
この問いを持てるなら、ゼロイチは神秘的なひらめきではなくなる。新しいものは、まだ存在しない場所から突然現れるのではない。すでに存在するものの隙間に、誰も名前をつけていなかった不満として、最初から静かに存在している。
Sources
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