複雑な手続きを、再利用できる形に変える力
Hatched by naoya
Apr 20, 2026
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いちばん面倒な仕事ほど、実はデザインできる
「手続きが面倒なのは仕方がない」と思った瞬間、私たちは改善の可能性を手放してしまいます。けれど本当に面倒なのは、手続きそのものではありません。手続きが毎回ちがう顔をして現れることです。入力項目が場所ごとに違い、確認の順番がバラバラで、同じ情報を何度も求められる。そこで人は疲れ、ミスし、途中で諦めます。
一方で、ある種のデザインの世界では、複雑さはまったく別の扱いを受けます。ばらばらの要素をその場しのぎで作るのではなく、再利用できる部品として整理し、回転や複製のような操作で秩序を増やしていく。ここに、行政手続きとFigmaのコンポーネントづくりが、驚くほど深くつながるポイントがあります。
両者を結ぶ問いは、こうです。複雑なものを、どうやって人間が扱える形に変えるのか。
乱雑さを減らすのではなく、構造を増やす
多くの人は、複雑な手続きを簡単にするとは、項目を減らすことだと思っています。もちろん削減は重要です。しかし本質はそこではありません。複雑な業務には、法的要件、例外処理、確認責任、組織内の分担など、消し去れない制約があるからです。つまり問題は、複雑さをゼロにすることではなく、複雑さを構造化することにあります。
ここでFigmaのコンポーネント思考がヒントになります。ボタンを毎回手描きしないのは、見た目を楽にするためだけではありません。ボタンという部品にルールを持たせることで、サイズや状態や余白が変わっても、全体の整合性が崩れにくくなるからです。さらに回転複製のような操作は、単に時短ではなく、規則性を一気に可視化する技術です。ひとつ作って終わりではなく、関係性を作る。そこに設計の強さがあります。
電子申請のマニュアルも、本来は同じ役割を持つべきです。申請者に「ここに書いてください」と指示するだけでなく、どの情報がどの目的で使われるのか、どこで差し戻しが起きやすいのか、どの入力は共通化できるのかを示す。つまりマニュアルは、単なる説明書ではなく、ばらばらの行為をひとつの設計図へ変える媒体であるべきなのです。
手続きを楽にするとは、項目を減らすことではない。再利用できる構造に変えることだ。
この視点に立つと、行政もデザインも同じ課題に向き合っています。それは、個別の作業をつなぎ直して、誰が見ても同じように扱える「型」を作ることです。
ひとつの部品が、全体の理解を変える
人は複雑なものを前にすると、全体を一度に理解しようとして疲れてしまいます。ですが、実際に理解を支えているのは全体把握ではなく、部品の意味がわかることです。たとえば、あるフォームの入力欄がすべて同じ考え方で並んでいれば、利用者は新しい画面に出会っても戸惑いません。なぜなら、その画面を「一枚の絵」ではなく「知っている部品の組み合わせ」として読めるからです。
これは電子申請でも同じです。利用者にとって最大の障害は、書類そのものよりも、書類ごとに異なる認知負荷です。どこを見ればいいのか、何を先に埋めるのか、どこが必須でどこが任意なのか。そのたびに判断を強いられると、作業は止まります。ここで必要なのは、情報を単純化すること以上に、判断の回数を減らすことです。
Figmaのコンポーネントは、この判断削減の極めて洗練された例です。ひとつのコンポーネントにルールを持たせれば、あとは複製して使い回せる。しかも「複製するたびに少しずつずらす」「回転の規則を維持する」といった操作は、単なる見た目の装飾ではなく、作業の中に秩序を埋め込む方法です。人は規則に従って並んでいるものを見ると、全体の関係を直感的に理解できます。
行政の申請でも、本来は同じように考えられます。たとえば、住所、氏名、連絡先、法人情報、添付書類といった要素を、毎回別の形式で要求するのではなく、共通の部品として扱う。入力の文言、注意書き、エラー表示、確認画面の位置まで一貫性を持たせる。そうすると利用者は、ひとつの申請を終えた経験を次の申請に転用できるようになります。これが学習可能な手続きです。
学習可能な手続きは、初回だけでなく、2回目以降に強さを発揮します。人は一度覚えた型を使い回せるとき、制度を「運用できるもの」として感じます。逆に、毎回違う型を押し付けられると、制度は永遠に新規案件のままです。
優れたマニュアルは、読むものではなく、組み立てるもの
ここで、マニュアルに対する見方を少し変えてみましょう。よくある誤解は、マニュアルとは情報を丁寧に並べた文章だという考え方です。だが実際に価値があるマニュアルは、単なる説明ではなく、作業を組み立てられるようにする設計書です。
たとえば料理本を思い浮かべてください。単に材料の一覧があるだけでは不十分です。どの順番で切るのか、火加減はどうか、失敗しやすいポイントはどこか、代替材料は何か。それがあると、読者はレシピを「情報」としてではなく「再現可能な手順」として扱えます。電子申請のマニュアルもまったく同じで、利用者が必要なのは文章量ではなく、迷わず進めるための構造です。
このとき重要なのは、説明の丁寧さと使いやすさが必ずしも一致しないことです。説明が長いほど親切に見えて、実は認知負荷が増えることがあります。逆に、短くても順序が整理されていれば、利用者は安心して進めます。つまり優れたマニュアルは、情報を増やすのではなく、判断の負担を外部化するのです。
Figmaのコンポーネント設計も同じです。初心者は個別のオブジェクトを丁寧に作ろうとしますが、上達すると、共通化できる部分を先に見つけるようになります。見出し、ボタン、カード、アイコンの関係を部品化できれば、デザイン全体に一貫性が生まれます。ここで起きているのは、細部を省略することではなく、細部をルールに変換することです。
良い設計とは、説明を増やすことではない。説明しなくても進める状態をつくることだ。
この視点を行政に持ち込むと、マニュアルは「読み込ませる文書」から「進行を支える仕組み」に変わります。利用者が毎回どこで止まるかを見抜き、その止まりやすい箇所に構造を与える。そこまでいって初めて、マニュアルは実務の一部になります。
再利用とは、手抜きではなく責任の形式である
「テンプレート化すると画一的になるのではないか」という不安は根強いものです。確かに、何も考えずにテンプレートを配るだけでは、固いだけの制度になります。しかし本当に優れたテンプレートは、自由を奪うものではありません。むしろ、どこを変えてよくて、どこを変えてはいけないかを明確にするものです。
これは重要なポイントです。再利用は、創造性の敵ではありません。再利用は、制約の位置を可視化する行為です。Figmaでコンポーネントを使うとき、すべてを固定するわけではない。色や文言や状態は変えられるが、余白や構造は保つ、といったルールがあるからこそ、デザインは崩れません。ルールがあるから自由になれるのです。
行政手続きも同じで、再利用できる形式があると、担当者は毎回ゼロから文面を考えずに済みます。申請者も、別の手続きで学んだ知識を持ち込めます。ここでの再利用は、単なる省力化ではありません。責任の形式化です。何を標準化し、何を個別判断に残すのかを明らかにすることで、組織は説明責任を果たしやすくなります。
この観点から見ると、最悪の設計は「毎回少しずつ違うこと」です。見た目の差分が小さいほど、人は違いに気づきにくく、誤用が増えます。少しずつ違う書式、少しずつ違うボタン位置、少しずつ違う入力順は、ユーザーにとっては毎回別の世界です。逆に、基本形が揃っていれば、例外は例外として際立ちます。標準化は平凡化ではなく、例外を見つけやすくする技術なのです。
この考え方は、コンポーネント設計から行政設計まで一貫しています。部品化とは、世界を単純化することではなく、違いの扱い方を洗練させることです。
Key Takeaways
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複雑さを消すのではなく、構造に変える。 項目を減らせない場面では、共通部品化とルール設計で扱いやすさを上げる。
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判断回数を減らす。 利用者が毎回考えなくて済むように、順序、文言、配置、エラー表示を一貫させる。
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マニュアルは説明書ではなく設計図として作る。 読ませるより、迷わず進めることを優先する。
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再利用は手抜きではない。 どこを固定し、どこを変えてよいかを明確にすることで、責任と自由の両方が成立する。
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標準化は例外を見つけるためにある。 基本形が揃うほど、本当に特別なケースだけが浮かび上がる。
ひとつの型を持つ社会は、学習できる社会である
私たちはしばしば、制度は制度、デザインはデザインだと切り分けて考えます。しかし実際には、どちらも人間の注意力をどう守るかという問題です。注意力は有限です。だからこそ、手続きも画面も文書も、できるだけ同じ原理で整理されている必要があります。
電子申請の使いにくさは、しばしば法律の難しさだけに帰されます。けれど本当のボトルネックは、複雑さが人間の認知に対して無秩序に配置されていることです。Figmaのコンポーネントが示しているのは、複雑なものでも、部品と規則に落とし込めば、扱えるという事実です。これは見た目の話ではなく、知的なインフラの話です。
社会を使いやすくするとは、あらゆるものを簡単にすることではない。繰り返しに学習が宿るようにすることだ。
だから本当に問うべきなのは、「もっと簡単にできないか」ではありません。どうすれば、次の人が前の人の学びを引き継げる形にできるかです。そこに、設計と制度をつなぐ本当の答えがあります。複雑なものをひたすら削るのではなく、再利用できる型に変えること。これが、面倒な世界を少しずつ人間的にしていく、いちばん現実的で、いちばん強い方法です。
Sources
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