副業とユーザーヒアリングに共通するのは、才能ではなく『参加しやすさ』だった

K.

Hatched by K.

Apr 20, 2026

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その行動、やりたいのか、やれるのか

副業が広がらない理由は、時間がないからだけではない。新しいサービスの利用が進まない理由も、単に魅力が足りないからではない。両者に共通するのは、もっと厄介で、もっと本質的な問題だ。人は、興味があっても、やれる気がしなければ動かない

ここに、仕事とサービス設計をつなぐ重要な視点がある。副業を「収入を増やす手段」とだけ見ると、参加のハードルは高く見える。だが副業には、スキルを伸ばす、経験を広げる、社外とつながるという複数の意味がある。同じように、サービスの利用も「使うか使わないか」だけではなく、使う前の心理的な段階がある。鍵になるのは、意欲ではなく参加のしやすさだ。

このとき役に立つのが、行動を「関与度」と「自己効力感」で見る発想である。関与度は、その対象にどれだけ興味があるか。自己効力感は、自分にできそうだと思えるか。副業もサービス利用も、この二つの軸のどこに置かれるかで、動き方がまったく変わる。

人は「やりたいこと」に動くのではない。多くの場合、「やれそうなこと」にしか最初の一歩を出せない。


失敗するのは、魅力がないからではなく、入口が一つしかないから

多くの組織は、副業でもサービスでも、最初の設計を間違える。対象をひとまとめにし、「利用者」「社員」という一つの塊として見てしまうのだ。しかし実際には、人は同じ制度やサービスに対して、まったく違う距離感を持っている。

たとえば副業を考える会社には、少なくとも三つの見え方がある。

  1. 技術向上やキャリア形成の場として副業を捉える人
  2. 収入補填や生活防衛として副業を必要とする人
  3. 外部人材活用やフリーランス的な関わりとして副業を位置づける人

この三つは、同じ「副業」という言葉で括れない。1は学習意欲が高いが、必ずしも切実ではない。2は切実だが、心理的負担が大きい。3は成果志向で、関係性の設計が重要になる。つまり、副業は一枚岩ではなく、人が何を得たいかよりも、どのくらい動ける状態にあるかで見るべきなのだ。

サービスも同じである。ある人は製品に強い関心を持つが、自分には使いこなせる気がしない。別の人は興味は薄いが、使い方が簡単なら試す。さらに別の人は、そもそも関心が低く、今は必要性も感じない。この違いを無視して「みんなに魅力的に見せる」ことだけに力を注ぐと、入口が一つしかないプロダクトになる。

良い設計とは、入口を増やすことではなく、異なる心理状態に合わせて入口の意味を変えることだ。


本当に測るべきは、関心ではなく「自己効力感」

新しい施策を考えるとき、多くの人は「興味があるか」を聞く。もちろん重要だ。しかし興味だけでは、人は動かない。もっと予測力が高いのは、「自分にできると思うか」である。

この視点は、副業の制度設計に驚くほどよく効く。たとえば、会社が「副業を認めています」と言っても、社員は次のような不安を抱える。

  • 何から始めればいいかわからない
  • 本業との両立ができる気がしない
  • 上司や同僚の目が気になる
  • 失敗したら本業にも悪影響が出そう

これらは能力不足ではなく、自己効力感の不足である。つまり、制度があっても行動に移れない。サービス利用でも同じで、価値が理解されていても、最初の操作、最初の申込み、最初の成功体験が見えないと、人は前に進めない。

ここで重要なのは、自己効力感は「説明」では上がりにくいということだ。人は、頭で理解しただけでは動けない。必要なのは、成功を小さく分割することである。たとえば副業なら、いきなり本業級の成果を求めない。まずは週2時間の試行から始める。サービスなら、全機能を案内するのではなく、最初の1回で価値が伝わる一連の流れを作る。

これは単なる導線の話ではない。人の行動は、意欲より先に「自分でもできる」という感覚によって立ち上がる。だからこそ、優れた制度やサービスは、利用者の能力を前提にしない。能力を証明させるのではなく、能力が育つように設計する


「副業OK」はゴールではない。行動しやすい社会の設計図である

副業解禁を、ルールの緩和だけだと考えると失敗する。なぜなら、ルールが変わっても、行動条件が変わらなければ、人は動かないからだ。必要なのは、許可ではなく参加可能性の設計である。

参加可能性を高めるには、少なくとも三層で考えるとよい。

1. 意味の層

副業を何のためにやるのかを複数提示する。収入だけではなく、学習、実験、関係構築、将来の選択肢づくりなど、意味の幅を持たせる。人は、自分の事情に合う意味が見つかると動きやすくなる。

2. 実行の層

何をどの順序でやればよいかを明確にする。応募、時間配分、社内報告、成果の扱いなど、最初の一歩を具体化する。曖昧な自由は、しばしば不自由より重い。

3. 安心の層

失敗しても不利益が過剰にならないようにする。評価への影響、情報管理、労働時間管理など、心理的なリスクを下げる。人は機会よりも先に、危険を見積もる。

この三層は、サービスにもそのまま当てはまる。新機能を出すなら、単に「便利です」と言うだけでは足りない。何に役立つのか、どう使うのか、失敗しても大丈夫か。この三つが揃って初めて、人は試す。

制度は許可するだけでは足りない。人が踏み出せるように、意味、手順、安心の三つを整えてはじめて機能する。

ここで見えてくるのは、優れた組織ほど「自由にしている」のではなく、自由を行動に変えるための足場を用意しているという事実だ。


ユーザーヒアリングが教える、本当に聞くべき質問

ユーザーヒアリングで価値が出るのは、要望を集めるときではない。人の行動を止めている見えない壁を見つけるときだ。そのためには、「何が欲しいですか」よりも、「なぜそれをまだやっていないのですか」と聞くほうが深い。

副業においても、サービス利用においても、聞くべきは次のような問いである。

  • その行動に、どのくらい興味があるか
  • できそうだと感じるか
  • どの瞬間に不安が生まれるか
  • 何があれば最初の一歩を踏み出せるか
  • その行動の意味は、自分にとって何か

この問いを立てると、表面的なニーズの下にある構造が見えてくる。たとえば「副業したい」と言う人でも、実際には稼ぎたいのではなく、本業だけでは得られない成長感を求めているかもしれない。逆に「興味はあるが無理」と言う人は、能力がないのではなく、失敗時のコストを高く見積もっているだけかもしれない。

サービスでも同じだ。人が離脱する原因は、機能不足とは限らない。理解の難しさ、初回の面倒さ、利用後の自信の欠如など、心理的摩擦が本当の障害になっていることが多い。

ここで大切なのは、ヒアリングを「意見収集」と考えないことだ。ヒアリングの役割は、どの軸で詰まっているのかを特定する診断である。関心が低いのか。できる気がしないのか。意味が合っていないのか。ここを見誤ると、改善策もずれる。

たとえば、興味は高いが不安が強い人には、情報提供よりも試行機会が必要だ。逆に、自己効力感はあるが関心が薄い人には、価値の接点を増やす必要がある。つまり、同じ「離脱」を見ても、処方箋は真逆になりうる。


行動のハードルを下げるとは、軽くすることではなく、意味を近づけること

ここまで見てきたように、副業とサービス利用には共通の構造がある。それは、人は「いいもの」に惹かれるだけでは動かず、自分の現在地に接続されたものにしか本気で反応しないということだ。

だから、行動のハードルを下げるとは、単に楽にすることではない。むしろ、次の三つを近づけることだ。

  • 意味: その行動が自分にとって何を持つか
  • 能力感: それを自分ができると思えるか
  • 環境: 今の生活や職場の中で無理なく続けられるか

この三つが重なると、人は動く。逆に、どれか一つでも遠いと止まる。副業制度でいえば、「成長できそうだが、時間も不安も大きい」状態は続かない。サービスでいえば、「便利そうだが、自分には難しい」状態は初回利用で終わる。

だからこそ、組織は人に「やる気」を求める前に、行動の意味を翻訳し、最初の成功体験を小さく設計し、失敗のコストを下げるべきだ。それは甘やかしではない。人間の行動原理に忠実な設計である。

Key Takeaways

  • 興味と自己効力感は別物。人は、やりたいことより先に、やれそうなことに動く。
  • 副業は一枚岩ではない。学習、補填、外部活用では、参加動機も支援の仕方も違う。
  • 制度だけでは人は動かない。意味、手順、安心の三層を整えて初めて行動につながる。
  • ヒアリングで聞くべきは要望ではなく障害。なぜやっていないのか、どこで止まるのかを特定する。
  • 最初の成功体験を設計する。大きな挑戦を促すより、小さな達成を積み上げたほうが参加は広がる。

結論: いい制度もいいサービスも、「人を変える」より先に「参加できる人を増やす」

副業もユーザー体験も、表面上は別のテーマに見える。だが本質は同じだ。どちらも、行動の前にある心理的な段差をどう越えるかを問うている。人は、選択肢があるだけでは動かない。自分に関係があると感じ、できそうだと思えたときに初めて動く。

だから、本当に優れた設計とは、能力の高い人を選ぶことではない。まだ動けていない人が、動ける状態に変わる構造をつくることだ。

副業を促すことは、単に働き方を増やすことではない。人が自分の可能性を試せる社会をつくることだ。サービスを磨くことも、単に使いやすくすることではない。人が自分の生活に取り込める形へと翻訳することだ。

最後に残る問いは一つである。あなたが今設計しているものは、魅力的だろうか。それとも、人が参加できるだろうか。この問いを持つだけで、制度もプロダクトも、見え方がまるで変わる。

Sources

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