第1 章 意思決定の構造 世界のルールを可視化する 私たちの日常は、無数の「選択」でできています。朝食に何を食べるか、どのルートで通勤するか、会議で発言するか黙っているか。 しかし、その選択の結果が「自分一人の行動」だけで決まることは稀です。多くの場合、あなたの運命は、周囲の人々の選択と複雑に絡み合っています。 第1 章では、この絡み合った世界の糸を解きほぐすための基本的な道具、すなわちゲーム理論の基礎概念について解説します。ここを理解することで、世界を見る解像度が劇的に上がります。 1. 1 ゲーム理論とは何か 勝つための技術ではなく、状況を記述する言語 「ゲーム理論」という名前は、少し誤解を招きやすいものです。これを聞くと、ポーカーや将棋のような遊びの必勝法、あるいは相手を出し抜くための冷酷なマニュアルを想像するかもしれません。 確かにそのような側面もゼロではありませんが、本質はもっと広く、深いところにあります。 ゲーム理論とは、一言で言えば「複数の主体が影響し合う状況を分析するための共通言語」です。 物理学が「力」や「重力」という言葉を使って、ボールが落ちる現象や惑星の動きを説明するように、ゲーム理論は「戦略」や「利得」という言葉を使って、人間社会の関わり合いを説明しようとします。 たとえば、ある企業が新商品を出すとします。その商品が売れるかどうかは、商品の質だけでなく、ライバル企業が似たような商品をいくらで出すかによって決まります。 また、国家間の交渉において、ある国が条約を守るかどうかは、相手国が約束を破ったときにどう報復するかによって左右されます。 このように、自分の行動の結果が相手の出方に依存し、相手の行動の結果も自分の出方に依存する状況。これをゲーム理論では「ゲーム的状況」や「...
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