SNSを作る前に、SNSになれる道具を作れ

Kei

Hatched by Kei

Aug 24, 2026

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「SNSを作ろう」と考えた瞬間、すでに負け始めているかもしれない。

SNSは、人を集める場所として設計されるより先に、人が誰かに見せたくなる道具として生まれることがある。画像加工、動画編集、アバター作成、情報収集。最初は一人で完結する機能だったものが、ある瞬間から他者との関係を生み、利用時間を増やし、ネットワークへと変わっていく。

ここには、新規事業における重要な逆説がある。大きな事業を作るには、最初から大きなサービスを作ってはいけない。しかし、単に小さく始めてもいけない。

必要なのは、機能の規模を小さくすることではなく、未来の広がりを保ったまま、最初の価値だけを鋭くすることだ。

「小さく始める」が失敗する理由

新規事業では、よく「まずは小さく始めよう」と言われる。開発費を抑え、仮説を検証し、顧客の反応を見ながら改善する。これは正しい。しかし、この言葉はしばしば危険な形で実行される。

機能を減らし、対象顧客を狭め、無難な価値を提供する。その結果、誰にも強く必要とされない「小さいサービス」が完成する。小さいことと、鋭いことは同じではない。

例えば、写真共有サービスを作るとする。最初から「写真を投稿し、友人をフォローし、コメントできる」機能を一通り用意すると、SNSらしくはなる。しかし、ユーザーが今すぐ使う理由は弱い。写真を投稿するには、投稿する写真が必要で、見てくれる友人も必要で、反応を待つ心理的負担もある。初期サービスにとって、これは複数の条件を同時に満たさなければ成立しない構造だ。

一方で、自分の顔を魅力的に加工できるアプリなら、価値は一人で完結する。ユーザーは登録直後に結果を得られる。そして、その結果を誰かに見せたくなる。「見てこれ」と送る行為が発生すれば、サービスは広告を買わずに新しい利用者を獲得できる。

ここで重要なのは、加工機能が単なる便利機能ではないことだ。それは、個人の満足と他者への共有を同時に生む、最初の価値の装置である。

小さく始めるとは、未来を小さくすることではない。未来につながる最初の行動を、ひとつに絞ることである。

プロダクトの入口は「機能」ではなく「行動」から設計する

優れた新規事業は、機能一覧から始めない。ユーザーの中で、どのような行動が連続して起きるかから始める。

例えば、アバター作成サービスなら、次のような流れが考えられる。

  1. 自分の分身を作る。
  2. 作った結果を見て、自分でも楽しむ。
  3. 友人に見せる。
  4. 友人が自分の分身を作る。
  5. 二人の分身を使って新しい表現を試す。
  6. 表現を蓄積し、再び使う。

この流れでは、最初の価値は「人とつながること」ではない。自分一人で面白いものを作れることだ。そこに「誰かに見せたい」という外向きの欲求が加わることで、個人向けの機能がネットワークの入口になる。

これは、SNSを後から付け足せばよいという単純な話ではない。最初の機能の中に、共有される理由が埋め込まれていなければならない。作ったものが他人に説明しやすい、見た瞬間に内容が伝わる、受け取った人も試したくなる。この三つがそろうと、プロダクトは利用者の行動によって広がり始める。

この観点から見ると、初期プロダクトの評価指標も変わる。登録者数だけを見てはいけない。見るべきなのは、次のような行動の変換率である。

利用者が価値を得るまでの時間、完成物を共有する割合、共有された相手が試す割合、試した相手が再び共有する割合。

登録者が一万人いても、誰も成果物を共有しないなら、ネットワーク化の可能性は低い。反対に、利用者が少なくても、熱心なユーザーが毎回作品を作り、他者を連れてくるなら、そこには拡張できるコアがある。

事業の成長は、四つの層に分けて考える

新規事業のプロダクトを設計するとき、私は成長を四つの層に分けて考えると整理しやすいと思う。

第一層: 個人価値

まず、一人で使っても明確な価値があること。編集した画像がきれいになる、情報を効率よく集められる、動画を簡単に作れる。ここでは他人の参加を前提にしない。

この層が弱いと、友人を招待する理由も生まれない。ネットワーク効果を急いで実装する前に、個人が「使ってよかった」と感じる瞬間を作る必要がある。

第二層: 表現価値

次に、利用者が自分の変化や成果を見せたくなること。単に便利なだけでは、共有は起きにくい。人は、役に立つものだけでなく、自分らしさを表現できるものも他人に見せる。

加工した顔、作成した動画、集めた画像、育てたキャラクター。これらはデータではなく、自己像の一部になる。だからこそ、共有行動には機能的な動機だけでなく、承認、驚き、遊び、所属感が含まれる。

第三層: 関係価値

作品や成果物を介して、他者との会話が生まれる段階だ。「それどうやって作ったの」「私もやってみたい」「次は一緒に作ろう」という反応が起きると、プロダクトは道具から関係の場へ変わる。

重要なのは、友達を先に集めるのではなく、会話のきっかけを先に作ることだ。人間関係を呼び込むのではなく、関係が生まれる理由を提供する。

第四層: 習慣価値

最後に、利用者が繰り返し戻ってくる理由が生まれる。新しい素材が追加される、友人の活動が見られる、自分の表現が蓄積される、次に作りたいものが思いつく。ここで初めて、利用時間や日次利用といった指標に意味が出てくる。

多くのチームは、第一層が十分に成立していない段階で第四層を作ろうとする。タイムライン、通知、ランキング、フォロー機能を追加し、利用者を滞在させようとする。しかし、価値のない滞在は習慣にならない。通知で戻ってきたユーザーも、見るものがなければすぐに離れる。

この四層モデルが示すのは、SNS化は機能追加ではなく、価値の連鎖が深くなることだ。個人価値が表現価値を生み、表現価値が関係価値を生み、関係価値が習慣価値へ変わる。

プロダクトマネジメントは、創造と撤退を同時に設計する仕事

ここで難しいのは、未来の可能性を信じながら、現在の仮説には執着しないことだ。

新規事業では、初期構想が重要になる。目の前の競合を真似するだけでは、将来の広がりがない。どのようなユーザーの課題を解くのか、その価値は別の課題にも展開できるのか、熱心な利用者の行動から何を抽象化できるのかを考える必要がある。

しかし、大きな構想を持つことと、すべてを一度に作ることは違う。構想は大きく、実装は段階的にする。最初の段階では、将来の全体像ではなく、コア価値が最短時間で成立するところまで作る。

例えば、「若者の自己表現を支えるコミュニティ」を構想したとしても、最初に必要なのはコミュニティ機能ではないかもしれない。まずは、自分の分身を作り、それを誰かに見せるという行動を極端に良くする。その行動が繰り返され、他者を自然に連れてくるなら、次の段階で交流機能を加える。

このとき、フェーズごとに「何を作るか」だけでなく、「何が起きたら次へ進むか」を決めるべきだ。

第一段階の判定例は、次のようになる。

  • 初回利用者の大半が、数分以内に完成物を作れる。
  • 完成物を自発的に共有する利用者が一定割合いる。
  • 共有された相手が、説明を受けなくても価値を理解できる。
  • 熱心な利用者が、広告や営業なしに新規利用者を連れてくる。

これらが起きていないのに、機能を増やしてはいけない。起きているなら、次の層への投資を検討する。

同時に、撤退基準も事前に置く必要がある。資金が尽きるまで続ける、担当者が疲弊するまで続ける、経営者が愛着を手放せるまで続けるというやり方では、判断が遅すぎる。一定期間の利用継続率、共有率、再訪率、顧客獲得コストなどを使い、どの条件なら仮説を捨てるかを決めておく。

撤退基準は悲観的な制度ではない。むしろ、撤退の出口があるからこそ、チームは大胆な仮説に賭けられる。 失敗しても止められない事業では、最初から誰も本当に尖った挑戦をしない。

「成長させる機能」ではなく「次の行動を生む機能」を作る

この考え方を実務に落とすには、ロードマップの各項目を別の質問に置き換えるとよい。

「フォロー機能を追加するか」ではなく、「作品を見た人が、作り手ともう一度関わる理由は何か」と問う。「通知を増やすか」ではなく、「利用者が戻ってくる新しいきっかけは何か」と問う。「SNS化するか」ではなく、「一人の行動が他人の行動を自然に誘発しているか」と問う。

プロダクトの成長は、機能の数ではなく、行動の連鎖で測るべきだ。

一人で使える。見せたくなる。相手も試したくなる。試した結果をまた見せたくなる。この循環が回るなら、後からコミュニティ、ランキング、発見機能、コラボレーションを加える意味が出てくる。

逆に、この循環がないままSNSらしい外観だけを整えても、空のショッピングモールを作るようなものだ。店舗も商品もないのに、通路と案内板だけを増やしている。

Key Takeaways

  • 小さくする対象は構想ではなく、最初に検証する行動である。 未来の事業像は大きく持ち、初期プロダクトでは一つのコア行動に集中する。
  • 最初の価値は、一人でも成立させる。 他人がいないと使えないサービスは、初期の成長に大きな摩擦を抱える。
  • 共有される理由を機能の内部に埋め込む。 便利さだけでなく、自己表現、驚き、遊び、会話のきっかけを設計する。
  • ロードマップを機能一覧ではなく、行動の連鎖として描く。 何を実装するかと同時に、どの行動が次に生まれるかを明記する。
  • 継続条件と撤退条件を同時に決める。 大胆に試すためには、仮説を捨てるルールが必要である。

SNSは目的ではなく、価値がつながった結果である

新規事業のチームは、ときどき「ユーザー数を増やす」「滞在時間を伸ばす」「SNSになる」という結果を、最初から目標にしてしまう。しかし、それらは出発点ではない。人が自分のために使い、誰かに見せたくなり、他者の行動を誘発し、そのやり取りが蓄積された結果として生まれる。

だから、最初に問うべきなのは「どうすれば人を集められるか」ではない。

このプロダクトは、一人の満足を、他者との新しい行動へ変換できるか。

この問いに明確な答えがあるなら、サービスは後から大きくなれる。答えがないなら、どれほど多くのユーザーを集めても、成長は広告費に依存し続ける。

本当に強いプロダクトは、利用者を囲い込む場所として始まらない。利用者が何かを作り、表現し、誰かに手渡すための道具として始まる。そして、その手渡しが何度も繰り返されたとき、道具はいつの間にか場所になる。

事業を始めるとき、最初から大きな広場を作ろうとしてはいけない。まずは、一人が何度でも使いたくなり、誰かに見せずにはいられない、小さくて鋭い道具を作ることだ。その道具の周囲に人が集まり始めたとき、あなたはSNSを作ったのではない。価値が、人から人へ移動する仕組みを発見したのである。

Sources

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