まえがき 本書は、明治九年(一八七六年) に来日したフランス・リヨンの実業家で、今日のフランス国立ギメ東洋美術館創設者のエミール・ギメ(一八三六‐一九一八) の旅行記 Promenades japonaises(一八七八年) の日本語訳
彼は、十九世紀後半から二十世紀初頭において、東洋美術の大コレクターとして世界に名を馳せた人物であった。そのコレクションは古代エジプトから極東まで多岐にわたる。なかでも日本美術に関しては、本書に綴られた来日時の膨大な 蒐集 品 がそのもととなって、ほかに類を見ない見事なコレクションを築き上げた。
二十三日間の航海を経て、 朝靄 に浮かぶ日本の見慣れぬシルエットを目にすると、二重の興奮がこみ上げてくる。 港に着くという喜びの上に、あの 御伽話 のような国にたどり着くのだという感動が加わるからである。十八世紀には、私たちはこの国を漆器や 屛風、磁器や象牙細工であれこれ想像するしかなかった。
サン・フランシスコで乗船したアメリカ客船アラスカ号にも、技師免許を得ようとアメリカにやってきた三人の日本人がいた。彼らは夜明けからこのデッキに出てきて、水平線の彼方にある日本列島を私たちのように、いや、おそらく私たち以上にじっと眺めていた。
私たちの船は、しだいに 江戸 湾へと入っていった。すると、奇妙な形に切り立った白い断崖絶壁が左右に現れ、かつて夢見た日本の姿が現れた。 翠緑 が丘を縁取り、そこかしこ、厚い樹皮のようになっている。起伏の多い高台の頂を覆う松の大木は、幹が垂直線に、枝葉が平行線になっている。紫色の空を背景にして、絵筆で描いたような風景がくっきりと浮かびあがり、それが海水に映っている。
日本人の若者たちは、彼らの主人の小荷物の上にしっかりと立ち、浮彫のような風情である。衣服の 襞 が醸す優雅さ、体の輪郭の力強さ、 露 わになった腕、交差した足先と傾けた首という姿勢、纏う布地に合う均整のとれた体つき、それらすべてが古代彫刻の荘厳な美を 彷彿 とさせるものである……。まさかアメリカ客船から望む極東の港に、これほど鮮明な古代ギリシャ・ローマの幻影を見ようとは思いもよらなかった。
どうにかこうにかグランド・ホテルが用意したサンパンのせせこましい船室に入りこむと、 艪 を手にした四人の 漕ぎ手が、税関の建物まですばやく連れていってくれた。彼らは、リズミカルな掛け声を発して景気づけし、規則正しい動きを保っている。船の進行方向におかれたオールが、軸の上で回転し揺れうごく──
雨が上がり、太陽とともに暑さがやって来た。それにもかかわらず、 印象〔ギメは後段6で出てくる通り、旅の印象を重視している〕 を求めて 横浜 にこうして出てくると、歩みを進めるごとに現れてくる、見知らぬ事柄、新たな形、初めて目にする種類、意表をつく衣服──よく見よう!
日本が西洋に対して国を開いたとき、やってきたのは中国人であった。彼らはあくまで自分たちの商売をうまく行うのみで、他人の商売に関しては不誠実である。英語をそこそこ話し、日本語も読める彼らは、新参者と日本人の間にすばやく入りこんだ。彼らは銀行、割引、通貨両替、取引相場に関わる問題を熟知しているため、
ところで、そもそもコンプラドールとは何者であろうか? コンプラドールは、会計係に任命された詐欺師である。この泥棒は同業者から保証され、営業認可を得ている。それですべての支払いにおいて手数料を徴収するのである。










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