もとよりコミュニケーションは複雑な営みであり、それだけに原因の解明も一筋縄にはいきません。 が、そんな状況下、私たちのコミュニケーションに影響をおよぼす最大の理由が、心理学や組織行動学の発展により、少しずつあきらかになってきました。それこそが、「人としての魅力」です。
トロント大学などが行った研究によると、多くの人は、初めて知り合った人物の好感度や信頼度を最短5秒で評価し、そこで行った判断をもとに、相手とどのようなコミュニケーションを取るかを決めます( 9)。 言い換えれば、人としての魅力が基礎にないと、私たちは会話のスタートラインにすら立てないのです。
〝カリスマ〟と呼ばれるような人たちに、誰もがひとりやふたりは心当たりがあるでしょう。初対面の相手ともすぐに打ち解け、多くの人から信頼を集め、口から出た言葉が大きな説得力を持つ。そんな特徴を兼ね備えた人物のことです。幸いにも、この 50 年でカリスマの理解は飛躍的に進み、一般人でも高い魅力を身につけ、コミュニケーションの能力を高められることがわかってきました。 たいていの研究では、カリスマを次のように定義します。 ● コミュニケーションを通じて、他人に影響をおよぼす能力が高い人
が、「過激な表現」「攻撃的な姿勢」「非倫理的な態度」が多い人たちのカリスマ性には限界があり、その魅力はほどなく賞味期限が切れることがわかってきたからです。 そのため、近年に行われた研究の多くは、カリスマの定義に次の要素も加えています。 ● 誰にでも親切で、あらゆる人を良い気分にさせられる。 ● ネガティブな感情を使って、人を操作しようとはしない。 この定義に照らせば、先に挙げたカルトの教祖、独裁者、迷惑系のセレブなどは、カリスマとみなされません。 科学の世界におけるカリスマとは、初対面の相手ともすぐに打ち解け、多くの人をくつろいだ気分にさせ、他者にポジティブな影響力を与えるような人物を指します。まさにコミュニケーションの達人です。
ルックスの効能を示したデータも多く、ある研究では、美男美女の教師に習った学生は、そうでない教師についた学生よりも、「授業の内容に説得力があった」と答える確率が高く、実際にテストの成績も良い傾向がありました( 10)。その他の研究でも、私たちの多くは、外見の良い人物が発したメッセージほど信じやすい現象が報告されており、コミュニケーションにルックスの良さが役立つのは疑いようがありません( 11)。 しかし、実はルックスが持つ影響力は、世の中で思われるよりも長くは続きません。たいていの場合、皆が認めるような容姿を持った人物ほど時間とともに人気が下がり、一方で普通のルックスを持つ人の魅力度は上がっていくのが一般的なのです。
もうひとつ、中国で行われた実験も見ておきましょう( 14)。研究チームは、120人の男女に 60 枚の顔写真を見せ、それぞれのルックスの良さを評価させました。すべての写真には「この女性は親切です」「この男性は意地悪です」などの文章が添付され、各人物の性格が一目でわかるようにデザインされています。 その後、すべてのデータを分析してみると、たいていの被験者は、性格の良い人物を「見た目が良い」と感じ、性格が悪い人物を「見た目が悪い」とみなす傾向が認められました。その人物に抱いた好感度によって、ルックスの印象が変わったわけです。 同じ現象は複数のテストで認められており、 54 年におよぶ長期の調査でも、ボランティア活動に多くの時間を割く人は、ルックスでも高い評価を得やすかったと言います( 15)。
人類が今の文明を築けたのは、言葉の力で重要な情報を伝えることができたからこそです。それなのに、実際の私たちは、貴重なコミュニケーションを無益な情報のやり取りに使ってしまうのだから、時間の浪費としか思えません。 実に不思議な現象ですが、その答えを一言で表すなら、「雑談を使って相手の能力を査定するため」となります。一見役に立たない雑談のなかで、私たちは、相手がどのような人物なのかを値踏みしあっているのです。
ここ数年の研究により、私たちは他人と出会ってから2秒で、目の前の相手が信頼に足る人物なのかを判断することもわかってきました。代表的なのはスタンフォード大学の調査で、研究チームは、同大学の新入生たちに教師の講義動画を2~ 10 秒だけ見せ、どのような印象を持ったかを調査。すると、新入生たちの回答は、教師のことをよく知る上級生の評価とそっくりで、特に「信頼性」「共感性」に大きな一致が見られました。その相関係数は0・76 で、ほんの数秒の判断としては、驚くべき正確さだと言えます( 24)。 代表的なところを見てきましたが、これらはあくまで一例にすぎません。相手の裕福さ、リーダーシップ、恋愛スキル、几帳面さなど、数えきれない量の要素を、人間は数分で査定し、その評価もかなり正確だとわかっています。 すべての査定が終わるまでの時間は平均5分で、ここで出た結論をベースにしつつ、私たちは相手との会話を続けるかどうかを判断します。この査定が、コミュニケーションの第一関門になるわけです。
実際、人類ほど他人を騙すのが好きな生物も珍しく、マサチューセッツ大学の調査によると、 10 分間の会話中に 60%の人間が2~3個の嘘をつき、1日のあいだに上司や同僚を騙す回数は平均で6回にもおよびます( 25)。これに対して、他の動物はほぼ真実しか表現せず、猫がのどを鳴らせばそれは満足感の表明であり、尻尾を激しく振ったらそれは確実に不機嫌のサインです。人類ほど平気で仲間を騙す生物は他にいません。
込み入ってきたので、いったん話をまとめます。人類の祖先は、生物としての弱さを克服すべく、進化の過程で〝協力〟という手法を発明。そのおかげで生存率のアップに成功しましたが、同時に裏切りの問題が起きたため、今度は他者の信頼性を見抜く能力を身につけ、仲間と協力しあうシステムの維持を試みました。 すでにお気づきの方もいるかもしれません。これこそが、〝魅力〟の正体です。 メカニズムを説明します。初対面の相手とコミュニケーションを始めると、私たちの脳はすぐに査定システムを起動させ、「この人物と協力しあうべきか?」の判断をスタート。その査定が「NO」だったときは、脳は「なんとなく不快だ」とのシグナルを発し、相手からあなたを引き離そうとします。 逆に「YES」の判定が出た場合は、脳は「好感が持てる」との感覚をあなたに向けて送り、相手との関係を前に進めるようにうながします。要するに私たちは、「この人は裏切らない」「私を助けてくれそうだ」と本能が判断した相手を、「魅力がある人物」として感知しているのです。










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