摩擦の境界を自分で引く——Personal AgentとThinking Proxyという実験

Satoaki Ooto

Satoaki Ooto

Mar 01, 2026

1 min read

先日AI時代での「仕事」と「労働」を意識したことを書き始めた。

https://glasp.co/posts/d5978351-e91d-48ad-b1f0-20a5ef951764

前回の記事では

  • 日々、生成AIを仕事に組み込んでいく中で、私たちは「労働」と「仕事」を分け、AIには手順化された処理を任せることが当たり前になってきた

  • そして、AIが「労働」を肩代わりしてくれるからこそ、人間は価値判断や「何を問いとして立てるか」という本来の「仕事」に集中できる。

しかし、実践を進める中で新たな課題も見えてきた。

それは「摩擦の仕分け」だ。

日々の業務では、他者からの依頼や相談、予期せぬ割り込みが絶えず発生する。

これをすべて生身で受け止めていては、シングルフォーカスを保つことは難しい。

かといって、AIにすべてを任せてしまえば、成長の糧となる「意味のある摩擦」まで削ぎ落としてしまう。

そこで私が考え始めたのが、「自分自身の代理を立てる」というアプローチだ。

これを

  • 外からの割り込みを整形するPersonal Agent

  • 内なる思考の飛躍を翻訳するThinking Proxy

のふたつに分けて考えてみたい。

「受け止めて整形する層」としてのPersonal Agentの着想

まず外側。日々の割り込みに対する層として考えたのが、Personal Agent だ。

誤解されやすいので先に言っておくと、ここで欲しいのは「判断を代行するAI」ではない。

欲しいのは 割り込みの一次受けと整形を肩代わりし、判断は自分が握る という形だ。

Personal Agentがやるのは、たとえばこんな仕事。

  • 外から来た通知・依頼・相談をいったん受け止める

  • 内容を分類して、必要な情報を補う

  • 「いま割り込むべきか」を整理して、判断の素材として返す

これができると、マルチフォーカスの洪水を「自分の頭で処理する」必要が減る。

結果的に、自分はシングルフォーカスに寄れる。

前のブログで書いた「マルチタスク、シングルフォーカス」を、意志ではなく構造で実現する、という感じ。

自身も摩擦を生み出している

外からの割り込みをPersonal Agentで整形できるなら、次に気になるのは、自分自身が無意識に生み出している摩擦だ。

内なる摩擦には2つの顔がある。アイデアを生む摩擦(守る) と、集中を削る摩擦(仕分ける)。この区別が、設計の核になる。

守るべき摩擦について

私にとって特に重要な信念のひとつに、「コンテキストの飛躍」がある。

思考を巡らせる際、私の中では様々な前提や文脈が次々と飛躍しながら繋がっていく。

この内なるカオスとも言える飛躍は、新しいアイデアを生み出す源泉であり、絶対に守るべき「内なる摩擦」だ。

しかし、この飛躍した思考をそのまま他者に投げつけると、相手は戸惑い、コミュニケーションの「消耗する摩擦」を生んでしまう。

具体的に、Claude in Chromeでスレッド要約をさせた時、飛躍した私の考えを汲み取れなかったケースがあった。つまり、私が無意識に省略した前提を補う「整形」が必要だったのだ。

Gmail+Geminiでも、ドラフトは速いけど「自分の声」に落とせない。これは文章生成の問題ではなく、「判断基準→語彙→トーン」という自分の変換ルールが言語化されていない問題だった。

ここで出てくるのが、Personal Agentとは別の役割——Thinking Proxy だ。Thinking Proxyは、私の飛躍する思考を受け止め、省略された前提を補い、他者に伝わる形に「翻訳」する。飛躍そのものは殺さない。飛躍の"着地点"を整形するのだ。

もう一方の、仕分けるべき摩擦。

外から来た割り込みだけでなく、自分の中で摩擦を勝手に生み出していることがある。

  • 不安でタスクを増やす(確認・念押し・先回り)

  • 未来のリスクを想像して、今いじらなくていい所に手を出す

  • 「あとで困りそう」を先に潰しに行って、集中が散る

  • もやもやを抱えたまま、別タスクに逃げて、また戻ってきて…を繰り返す

これらは、成長に必要な摩擦というより、集中を削る摩擦に見えることが多く「ただ捨てる」こともできない、そして感情や関係が絡んでいる。

だから、ここでも「境界」が必要だった。

  • この摩擦は守る?捨てる?

  • いま引き受ける?あとで引き受ける?

  • そもそも、摩擦を作り出しているのは何?

こうして、2つの役割が見えてきた。

Personal Agentは外からの割り込みを整形し、Thinking Proxyは内なる飛躍を翻訳する。

どちらも「整形」だが、その意味は違う。

共通しているのは、判断に必要な形へ変換するということだ。

外は要約とルーティング、内は翻訳と交通整理——形は違えど、目的は同じ。

まだ摩擦ポリシーが言語化できていない

そして、いざ、このPersonal AgentやThinking Proxyを作ろうとすると、ひとつの大きな壁にぶつかる。

「どこまでを整形させ、どこからを生身の自分が直接受け取るのか」という、摩擦の境界線が言語化できないのだ。

何を言っているのか?と思うかもしれないが「何を守るべき摩擦と感じ、何を捨てるべき摩擦と感じているのか」この境界線は、非常に属人的な「暗黙知」に根ざしていることにぶつかる。

言葉にならない「もやもや」や「違和感」、あるいは特定の他者との関係性の中で生まれる肌感覚。

これらを紐解き、「自分の摩擦ポリシー」を言語化しなければ、AgentもProxyもただの汎用的な秘書AIになってしまう。

摩擦ポリシーとは、具体的にはこういうことだ。

  • いつ割り込ませるか(タイミング)

  • どの粒度で返すか(整形フォーマット)

  • どこから先は必ず自分に返すか(判断の留保)

入口(Slackなのかメールなのか…)を固定するにはまだ早い。

でもそれは技術の問題ではなく、この摩擦ポリシーがまだ言語化できていないから固定する段階にないと考えている。

育てる、言語化と「ほぐれ」

この壁を越えるには、AgentやProxyにすべてを教えるというより、まず自分が自分を観察する必要がある。

ここでAIは「答えを出す装置」ではなく、自分の境界線を言葉にするための壁打ち相手になる。

最近だとClaude Codeなどを育てる感覚と同じではないだろうか?

  • もやもやを言葉にして外に出す

  • 反対意見を作ってもらう

  • 前提を疑ってもらう

  • 価値観の違う立場から見てもらう

このプロセスは、結果として自分の思考を「ほぐす」。 そして、ほぐれた状態で初めて「境界線」が言葉になっていく。

Personal AgentもThinking Proxyも一気に完成させない。

むしろ、育てる過程が、自分の判断や集中の癖を言語化する訓練になる。

皮肉だけど、そこが面白い。

私は、自分の中の暴れ馬のような思考の飛躍を制限せず、そのままぶつける。

AIを壁打ち相手として使い、違和感や仮説をどんどん外在化させていく。

Thinking Proxyはそれを「ほぐれ」のプロセスとして受け止め、私が無意識に飛ばしてしまった文脈を補い、他者に伝わる形に「整形」してくれるのだ。

具体化の最小形——「整形フォーマット」だけ先に決める

摩擦ポリシーの全体像はまだ見えていない。でも入口を固定できなくても、「整形の型」だけは先に作れる。

たとえば、Personal Agentが自分に返すときは必ずこの形にする、みたいな。

  • 要求の種類:回答/判断/作業/共有

  • 期限:いつまでに

  • 影響範囲:誰に何が起きる

  • いま割り込む必要:ある/ない(理由)

  • こちらの選択肢:A/B/C(コストとリスク)

たとえば「急ぎの相談メール」が来たら、Personal Agentがこのフォーマットで整形して返す。私は「判断」欄だけ見て即決できる。ここまで整形されていれば、判断は自分が握れるし、集中も守りやすい。

越境を「摩擦」から「素材」に変える

前の記事では「守る摩擦/捨てる摩擦」を分けようと言ったし、いまもそれは大事だと考えている。

でも、現実の課題は「捨てられない摩擦」をどう扱うかだった。 そして、その多くは外から来る割り込みであり、同時に自分でも生み出していた。

だから今の自分の結論はこうなる。

  • 摩擦を消すのではなく、摩擦の境界をつくる

  • 境界をつくるために、外にはPersonal Agent、内にはThinking Proxyを挟む

  • 判断は自分が握る、そのために、摩擦ポリシーを言語化する

  • 育てる過程が、自分の思考を言語化し、ほぐし、守る摩擦の密度を上げる

自分の暗黙知を言語化し、「整形の型」を持つことができると、世界との関わり方が変わってくる。

日常の消耗する摩擦をPersonal Agentが吸収し、思考の飛躍をThinking Proxyが翻訳してくれる分、生身の自分は、異なる環境や価値観を持つ他者との「越境」にこそ、フルスイングで向き合えるようになる。

最終的に、Personal Agentは「盾」、Thinking Proxyは「鏡」。判断の座標を自分に残しつつ、摩擦の境界を自分で引けるようになる。

次は、この整形フォーマットを1か月ほど回して、どの摩擦が「守る側」に残るのか観察してみる。

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