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増補 宗教者ウィトゲンシュタイン (法蔵館文庫)
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ウィトゲンシュタインはウィーンに帰るとすぐに自分の財産を処分する。兄のパウルと姉のヘルミーネ、へレーネに譲ってしまうのである。彼自身は無一文となり、それ以後、死ぬまで質素な生活を送ることになる(実際には、いざというとき彼が使えるように全額が保管されていたが、彼自身はそのことを知らなかった)。これにはさまざまな理由が考えられる。『論考』で世界について透徹した認識を得たウィトゲンシュタインは、「世界の内にはいかなる価値も存在しない」ことを悟った(第三章参照)。だとすれば、金や社会的地位といった世俗的なものに対する執着は当然なくなるだろう。また、第一次大戦従軍中に出会ったトルストイの影響(第二章参照)、つまり「生活は質素であるべきだ」という教訓とも大いに関係があろう。
ウィトゲンシュタインの後期哲学を理解するうえで重要であり、この時期の特筆すべきことの一つに、子供たちのためにドイツ語の辞書を作ったということがある。これは画期的な編集方針をとっている。つまり、語順をアルファベット順にするという原則や、派生語は幹語に付加するといった従来の原則に盲目的にはしたがわず、この両者を考慮しながらも、使用するさいの便利さやことばを実際に学ぶうえでの自然さに配慮して、語順を決定していったのである。さらにときおり、その地方の方言を引き合いに出して、意味や正書法の説明がなされている。この辞書は一九二六年に『小学校のための辞書』として出版された。
前期ウィトゲンシュタインの言語哲学は、「言語はいかにして現実を写しとるか」という点に考察を集中している(第三章参照)。要するに、言語の機能は現実を写しとることのみにある、と考えていたのである。しかし、後期ウィトゲンシュタインの言語哲学では、言語の機能の多様さが強調されており、それについてさまざまな視点から考察が加えられている。彼が「一つの硬直した原理」を追求することから、「多種多様な視点」を持つようになったのは、小学校教師の時代の経験によるところが大きいのである。
のちにウィトゲンシュタインは、建築について、「よい建築から受ける印象とは〈その建築が何か一つの思想を表現している〉ということである」とか、「すぐれた建築家とだめな建築家は、今日どのように区別されるか。だめな建築家はどんな誘惑にも負けてしまうが、まともな建築家は誘惑には負けない」ということばを残している。
ブラウワーの講演は、数学・科学・言語をすべて人間中心に捉えていた。これはウィトゲンシュタインの『論考』での考え方、つまり「論理や数学は、人間とは関係なくそれ自身で、世界との関係において成り立つものである」という考え方とまったく対立するものである。ブラウワーの講演がウィトゲンシュタインの心を揺さぶったことは充分に考えられるし、彼のその後の思索の歩みは、大きく捉えれば、ブラウワー的であり、論理や言語について人間の立場から解釈するものになっている。ウィトゲンシュタインをふたたび哲学に復帰させた遠因の一つは、この講演である。
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