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天使・雲雀 (角川文庫)
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父親が 愛撫 するように弓で 撫でたかと思えば、 鞭 で打つように 叩いたり、引っ掛って動かないのを引き離そうとするようにぎしぎし鳴らしたりすることだった。それは歌というより、叫びや 呻きに似ていた。空っぽの暗闇に何かを 囁くようだった。 咽喉 が 潰れるまで絶叫するように聞えることも、すすり泣きながら訴えかけるようなこともあった。手を休めるとコップに注いだ火酒を 呷り、また弾き始める。そのまま酔い潰れて眠るまで、ジェルジュは寝台の上で、 膝 を抱えて聞いていた。
ただ、要求は厳しければ厳しいほどよかった。何故なのかは自分でも判らなかっただろう。顧問官には判っていた──何ができるか証明して見せるのが快かったからだ。
ジェルジュはヴァイオリン弾きの頭の中を 覗き、その動きを写し取った。合わせて弾く時には、知らないうちに半ば、相手の意識に入り込んだ。ヴァイオリン弾きが鏡を見ながら弾いているような気になるまではすぐだった。だが、ジェルジュは最後の一線を注意深く避けた。その先へはどうしても行けなかった。相手の頭の中に渦巻いているものが恐ろしかった。同じものが自分の中で首を 擡げる瞬間はもっと恐ろしかった。あんなにも求めていた忘却と眠りがそこにあるのに、それが両手の間で口を開けて自分を飲み込もうとすると、怖くなった。
言葉に詰った。あの忘却と眠りと虚無に満ちた深処をどうやって見せてやればいいのか判らなかった。
「感覚を潰したい」とジェルジュは言った。 「お前、自分の値打ちがそれだけだってこと知ってるんだろうな」
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