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花夜叉(はなやしゃ)殺し 赤江瀑短編傑作選 (光文社文庫)
www.amazon.co.jp/dp/B07Y1XG1RB
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一花 が、この見えない刃物を身に呑むようになったのは、いつの頃からだったか。正確にはわからない。或る日 俄 に、知らぬ間に自覚した奇妙な 体の感じ であり、その日からずっと一花のなかに 棲みつくようになった、妖しい正体のない現実感である。
しかしあの時、一花は、母の死という恐怖にだけ 怯えたのではない。 母が『月子』という源氏名で、上七軒に出ていたせいもあっただろうが、この『月の庭』が一番好きやと言った母に、夜の世界でしか生きてこれなかった母の 苦渋 や淋しさが、幼い一花にも突然見え、やみくもに伝わって来る気がしたのである。自分の知ることの出来ない母を垣間見た不安と狼狽であった。明るい、 翳りのない声であったが、母がしあわせではなかったことを、一花は胸の底に灼きつけた。
庭はなんぼ名園やっても、住んどる者とつり合わん庭は、ほんまの庭やない。まず先に、住んどる者をよう見て作れて。
「女があっても、それだけやったら、ただの悩ましい匂いの庭や……。女が狂い始めんことには、あの庭は〈姿〉を現わさへん……狂い出して、初めて音楽が聴こえてくるのや。庭が、完成するのや。狂わせてみんことには……それはわからへんやないか」
叫びながら、一花は心の遠くの方で、小さい頃、何度も自分はこの声を発したのだと、むしろそれがひどく懐かしいことのように思えてならなかった。
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