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• 近年、近江商人は、その経営理念「三方よし」によって、脚光を浴びるようなった。「三方よし」とは、当事者である売り手と買い手だけでなく、その取引の背後にある世間、すなわち社会全体にも配慮する考え方をいう。企業のＣＳＲ（corporate social responsibility） が喧伝されるにつれ、企業の社会的責任と貢献を古来、実践してきた近江商人が再評価されているので
• 近江商人の行商は、行きも帰りも商いをすることから、「ノコギリ商法」と呼ばれた。彼らは、蚊帳や畳表、売薬、麻布といった近江の地場産品や、京都で仕入れた呉服や小間物を携えて、関東や東北といった地方に「持下り」、行商先で販売した。と同時に、青苧や紅花、生糸といったその地の特産物を仕入れて、帰りも行商したのである。 　近江商人は、商いが小さいうちは、商品を天秤棒に担いだが、行商先に馴染みの商人ができ、大きな商いができるようになると、牛や馬、船などを駆使して大量の荷物を先に送り、自分は身の回り品だけを天秤棒に担いで乗り込んだ。また、出先では現地の商人と商談だけをして、実際の販売は彼らにゆだねる委託販売方式も活用され
• このように、近江商人は、乗合商いと呼ばれる共同経営形態を編み出すことで、多店舗化と多角化を図った。その結果、地域や業種の分散が図られ、それが、経営リスクの軽減にもつながっている。 　なお、近江商人は、強い同郷意識で結束する一方で、進出先の商人との信頼関係構築に 長けたものも少なくなかったと考えられる。矢尾喜兵衛家のような、現地の商人と組んだ乗合商いや、先に述べた現地商人に販売をゆだねる委託販売方式はその証左となろ
• 近江商人は、「三方よし」の精神で精進し、各地の産業振興と経済発展に少なからぬ役割を果たしたのである。さらにいえば、地方都市や農村地域に、上方や江戸の商品を売り込むことで、文化の伝播にも貢献して
• 近江商人の店では、主人が、他国にある店と本宅の間を頻繁に往来する一方、各店の店員は、勤務地と本宅の間を、数年に一度、出世すれば、毎年のように行き来した。店員を同郷人で固め、「在所登り」を制度化するなかで、本拠地の近江に、こうして全国各地の情報が自然に集まる仕組みが構築された。 　近江商人の情報伝達力と分析力は卓越していた。それを証明する文書が、丁吟の本宅（現・近江商人郷土館） に残っている。幕末の安政７年（１８６０） ３月３日、江戸城の桜田門外で、彦根藩の行列が襲撃され、大老の井伊直弼 が暗殺された。この「桜田門外の変」を彦根に伝えた第一報は、江戸に店に構える近江の豪商、丁吟だっ