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• 「しっかりした赤ちゃんだったもン。生まれてすぐから」 　初江は〝生まれてすぐから〟という言葉をことさらに強く言った。そう思ったのは真樹子の気のせいかもしれないのだが、どうしてもこだわってしまう。 　真樹子は出産後しばらく原因不明の高熱が続き、新生児の世話ができなかった。もし悪性の疾患が赤ちゃんに感染したら命取りになってしまう。実の母より先にその子の面倒を見たという優越感がどうもこの女の中に根強く宿っているような気がしてならない。本人は無意識なのだろうが、そんな気配が漂うのは真樹子にはおもしろくなかった。日給いくらで雇われた立場のくせに。 　
• 色気や恋気で来るわけではない。ママと話していると、なにげなく楽しい。良質な陶器に触れたときのように人生の手触りが感じられるのだ。 　
• 映画のクライマックスにでもしたいような劇的なシーン……。いつ思い出してもなつかしい。人に語るには甘すぎるけれど、あのとき二人の心の中には真実しかなかった。一生助けあって生きて行く……。できるか、できないかの問題ではない。誓うこと、それ自体が真実であった。 　
• 子どもの心をあなどってはなるまい。約束そのものは意味を失ってしまっても、約束をしたという事実までは消えやしない。